ギタースクール講師の視点で、『名もなき者』—ボブ・ディランとアメリカ音楽のルーツ

梅田でボブディランの映画を鑑賞

先日、ボブ・ディランを描いた映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』を観に、梅田へ。

映画のプロット的には、少し曖昧に感じました。ディランの成功物語として描かれているわけでもなく、内面的な危機や再生のドラマとしてもちょっと深掘りが足りないかな、と(例えばハイライトのニューポートフェスは、実際都市伝説化され過ぎているのは周知の通り)印象。政治や社会背景も断片的に、小道具として扱われるのみで、全体として少し、散漫な印象も。

とはいえ、映画全体としては、もちろん楽しめました。
ディランを演じたティモシー・シャラメの歌唱は下馬評通り見事で、クイーンのあの人(名前忘れました、、)に続き、俳優の演じるミュージシャンとしては大健闘。音楽自体もとても良かったです(ミュージシャンの伝記映画なのだから、兎にも角にもまずこれが大前提ですよね。笑)。そして何より、CGを使わずに60年代のアメリカを、あれほどクールに完膚なきまでに再現してみせた美術と衣装とロケーション。あのシボレーとフォードの群れだけで、いったいどれだけの予算が溶けていったのか。想像するだけで気が遠くなりますよね。さすがハリウッド。ピート・シーガー役のエドワード・ノートンも印象的でしたが、個人的には彼にこそ“変人ディラン”を演じてほしかったなぁ。年齢的に難しいかもしれませんが、、。

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ブルース研究家目線でいうと、何といってもアラン・ローマックス

最後に映画の出来自体の話は置き、ギター講師&初期ブルース研究家の視点から書きますと、たぶん殆どの人は気にも止めない部分だと思いますが、アラン・ローマックスなる人物が描かれていたということ。劇中では、やや時代遅れのフォークの門番のような、少々可哀想な描かれ方でしたが、この人は実は、父ジョン・ローマックスと共に、アメリカ各地のフィールド録音を行い、刑務所に収監されていたレッド・ベリーを発見したり、ロバート・ジョンソンを探して南部を旅し、ロバジョンは発見できなかったものの、偶然クラークスデール郊外で、密造酒作りにいそしんでいた”マッキンリー・モーガンフィールド”といううだつの上がらない黒人農夫を発見したり(これがのちの、マディ・ウォーターズ)と、アメリカ音楽史における神のような人物で、彼の名が、あれだけマス層向けに作られた映画にクレジットされている、それだけでも、僕にとっては観る理由として十分すぎました。

と、私のマニアック心も満足させてくれた、良い映画でした。音楽の歴史、背景に関心のある方、特にジャズやブルース、フォークといったルーツミュージックに興味のある方にはおすすめです。良かったらぜひ観に行ってみて下さい(^^)

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