Aメロとバース(Verse)って? コーラス(Chorus)とサビの違いは?

コーラスやバースやサビやブリッジ

まだ東京にいた頃、あるリハーサルでのこと。ドラムはベテランのスタジオミュージシャン、SaxとVoはジャズ畑の方、ベースはジャズもスタジオ系もやる方、そして僕(まだペーペー)、という編成。

リハーサル中に「じゃ、バースの所から〜」とVoの方の指示。ところがドラムが「バース」をAABAの「A」の部分と勘違いし、叩き始めてしまった。それで、「何、どこやってんの?」と、Saxとドラムが険悪な雰囲気に(その前から、実は色々あったのも相まって。苦笑)。そのときベーシストがすかさず、「いや、こういうことってよくあるんだよね…」と場を和ませつつ誤解を解いてくれました。こういった事故は稀に起きますよね。ちなみにこの時のベーシストは、五木ひろしからTスクエアのサポートまでこなす、スーパーベーシストの村上聖さん。ジャズ、ポップス、両方の世界に精通した方がいて良かったという訳です。Saxとドラムの人はネガティブなことなので、伏せておきます。笑

このように、音楽用語はジャンルにより同じ単語でも違う意味で使われることもあり、少々やっかいです。ちょっと整理してみましょう。

目次

コーラス(Chorus)とサビの違い

ロック・ポップスの場合、「コーラス(Chorus)」というと、日本語で「サビ」と呼ばれる部分に相当します。楽曲の中で最もキャッチーで、繰り返し歌われ、印象に残る部分です。例えばBeatlesの「Let It Be」の「Let it be, let it be…」と繰り返される部分がコーラス(サビ)に該当します。Deep Purpleの「Smoke On The Water」であれば、「Smoke on the water…」の部分です。

ところがジャズでは「コーラス(Chorus)」という言葉は「サビ」ではなく、楽曲の本編そのものを指します。例えば、よくある「AABA形式」でも「ABAC形式」でも、その全体のことを「コーラス」と呼びます


Aメロ(Verse)とバース(Verse)

ロック・ポップスの場合、「Verse」は日本語の「Aメロ」に相当します。例えば、The Beatlesの「Let It Be」では、「When I find myself in times…」がAメロ(Verse)に該当します。Deep Purpleの「Smoke On The Water」であれば、「We all came out to…」の部分です。

一方、ジャズでは「Verse」は本編(Chorus)に入る前の導入部分を指し、多くの場合、ルバート(自由なテンポ)で演奏されます。例えばガーシュウィンの「Someone to Watch Over Me」では、「There’s a saying old, says that love is blind…」の部分がVerseに該当し、これが終わると本編(Chorus)に入ります。これは、ジャズスタンダード、特に歌ものの多くの出自がミュージカルの挿入歌から来ていることが原因です。セリフの後に、いきなり歌い出すと不自然なので(時にはそういう場合もありますが)、こういった導入部が存在する訳です。


その他に、ブリッジ、リフ、Vamp、など

「ブリッジ」という言葉も、時に「Bメロ」だという誤用が見られます。レッスン時に生徒さんから、ある音楽系ユーチューバーの解説動画でそう説明されていた、と聞いたのですが、おそらく「サビへと繋ぐ部分」という認識から生まれた誤解でしょう。しかし、これは違います。

「ブリッジ」は、何度も繰り返されるBメロとは異なり、「1度しか現れない、また今までのメロディやコード進行とは違う、サビへと繋ぐ部分」を指します。有名なのはジェームス・ブラウンのSex Machineで、新たな展開部に突入する前に彼が「Take ‘em to the bridge!」とバンドに指示しているのを聞くことができます。ただし、これはポップス/ロックの場合の話。ジャズではAABA形式の「B」の部分を指す意味で使う人も稀にいます(ジャズにおける「B」の部分は「Middle Eight」とも呼ばれます)。ですから、このユーチューバーさんの解説も「ジャズ」の楽曲に関しての話であれば間違いではありません。しかし、どうやら解説はポップスについてのものだったようなので、これは誤りと言ってよいでしょう。では逆に、「Bメロ」は何と呼ばれるかというと、Pre-Chorusと呼ばれる、と、音楽書などではよく紹介されていますが、ただ実際は「Pre-Chorusから」といちいち言うのも長いので、単に「Bメロ」と呼ぶので十分と思います。

また、「大サビ」という言葉も難しいですね。これは日本でのみ使われる概念なので、そもそも正式な名称が何に当たるのか、よく分かりません。時には先述の「ブリッジ」の意味で使われることもあります。また、楽曲の最後の最後、例えば繰り返されるサビが転調し、一番の盛り上がりを見せる部分を指すこともあります。個人的には、僕は「ブリッジ」の意味で使っていることが多いです。

また、「リフ」という言葉も難しい。ロックなどで「リフ」というと、いわゆるDeep Purpleの「ジャッ、ジャッ、ジャー」のようなギターリフのことを指し、多くはイントロやコーラスから次のVerse(Aメロ)に戻る「繋ぎの部分」で使われたりします。ところが、ジャズで「リフ」というと、カウントベイシーの「One O’Clock Jump」に見られるような、管楽器などで繰り返される短いモチーフで構成される楽曲のことを指し、これが「本編」部分を構成していたりします。もちろんロックのリフも、歌の部分に重ねられることもありますし(この場合、ジャズでのリフの概念と、近くなります)、またジャズのリフも、イントロ部分にも使われることもあります(この場合はロックで使われる「リフ」の概念と近くなる訳です)。また、ジャズでは「Vamp」という言葉も使われます。これは、「短いコード進行やリズムパターンが繰り返される部分」を指します。例えばコルトレーンの「My Favorite Things」などでEm-F#m、と繰り返される部分などですが、これもロックの「リフ」と(それも、シンプルだった場合は)かなり意味合いは近くなります。定義的にはVampはリズムシェイプやコードに比重が置かれ、リフはフレーズに比重が置かれている、ということになるのでしょうが、はっきり区別できない場合も多々あります。また、間奏は時に「Interlude」と書かれることもあります。しかしこれもまた、リズムシェイプを含む場合はVamp、あるいはフレーズ的であればリフと、明確に区別するのが難しいことが多々あります。

まとめ

  • コーラス(Chorus): ロック・ポップスでは「サビ」、ジャズでは「楽曲の本編全体」を指す。
  • バース(Verse): ロック・ポップスでは「Aメロ」、ジャズでは「本編に入る前の導入部分(ルバートが多い)」を指す。
  • ブリッジ(Bridge): ポップス/ロックでは「1度しか現れない、サビに繋ぐ部分」、ジャズでは「AABA形式のBの部分(Middle Eight)」を指すこともある。
  • 大サビ: 日本独自の概念で、楽曲のクライマックスや転調したサビ部分を指すことが多い。
  • リフ(Riff): 繰り返し演奏される短いフレーズ。
  • ヴァンプ(Vamp): 繰り返し演奏される、短いコード進行やリズムパターン。

とにかく、こういった用語はまず、「ロック/ポップスとジャズ」でもその使われ方が違い、また、日本独自の意味を持っている用語もあるので、誰にもはっきりとした定義はできない、というのが正直なところです。とはいえある程度は知っておくと、特に異なるジャンルのミュージシャン同士で交流する場合、コミュニケーションがスムーズに取れるんじゃないかと思います。しかしまた同時に、「これは厳密には、◯◯とは言わない!」などと、言葉の定義論に過剰に嵌まってしまうのも、意味のないことだと思います。あくまで主目的は、「いい音楽を演奏すること」にある訳ですから。

実際のセッションなどで、「じゃ、Verseから演奏しよう!」「コーラスの後に、8小節のVampを付けて…」などとコミュニケーションを取るケースも多々あります。その際にどう対応したらいいか、演奏だけでなく、そういったことまで含めて学びたい方は、ぜひnea Guitar Schoolへ。レッスン料金などはこちらから。お問い合わせのページはこちらにあります。

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