Doxy、スタジオに入ってから作った?

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ソニーロリンズ作の、ジャズセッション定番曲

Doxyのテーマ動画をアップしました。この曲はマイルス・デイヴィスのアルバム『Bags’ Groove(1957)』に収録されていますが、元々は1954年に録音されたもの。この時代(50年代)のアルバムは未だ、そのアルバムの為に新規録音した作品ではなく、それまでに録音済だった音源や発表済みのシングルをLPにまとめて発表する、という時代だったので(ちょうどSP盤からLP盤への過渡期の時代という訳ですね)、ですからこのタイトル曲にはロリンズは参加していません。このバグズグルーヴと、それ以外(ロリンズが参加した)の別々の2つのレコーディングセッションが1枚にまとめられているという訳です。この、バグズグルーヴ時のセッションがいわゆる「喧嘩セッション」と言われる有名なもので、でも実際は喧嘩でもなんでもなかったとか、じゃ誰が言い出したのかとか、面白い話があるのですが、それはまた別の機会に。それは置き、この若きロリンズが参加した方のセッションも同じく歴史的なもので、それは何と言っても「Oleo」「Airgin」、そしてこの「Doxy」とロリンズの代表作が3曲も一気にこのセッションで生まれていることからも明らかです。

興味深い逸話として、レコーディング時にこれらの曲はまだ完成していなくて、スタジオに入ってからマイルスが「曲は?」と聞くと、ソニー・ロリンズが「まだ出来てないよ、ちょっと待ってて」と紙切れに書き殴った、みたいなことがマイルスの自伝に書かれています。Airginは複雑ですから事前にアウトラインくらいは出来ていたような気がしまが、確かにこの曲なんかはシンプルだし、その場で即興的に作ったというのは十分にありえる話です。

さて。この「Doxy」のメロディって、Real Bookやジェイミー、黒本を見てもほぼ同じなので、長い間、それが正解と思い込んでいたのですが、先日久しぶりに『Bags’ Groove』の「Doxy」を聴いたところ、あれ、なんか違うなぁ、と思って調べてみると、実は細かい部分が違っていました(しかし後述の通り、違っていてもいいのです)。

もちろん楽譜に記譜する際には、正誤だけでなく「どこまで正確に記譜するか」という点で広大なグレーゾーンがあり、あまりに正確に記譜しすぎると、楽譜が細かい音符でいっぱいになり、逆に読みづらくなる場合だってあります。その場合、その楽譜は決して良い楽譜とは言えないでしょう。装飾音符を省略したり、細かなパッセージを簡略化し視認性を高めることは必ずしも「間違い」とは言えません。

とはいえ、せっかく気づいたので、楽譜に()で記してみました。動画で弾いているのはリアルブックや黒本通りのメロディですが、1小節目、4拍裏のG音は、どうもEbのようです。2小節目の1拍目裏は、Eのようです。でも更に言えば、1回目と2回目(5小節目)も違うし、3回目(13小節目)は2回ともE音のようです。笑。つまり、けっこう適当に気分で吹き替えていたような気がします(もちろん適当、というのは=適時に適切に、という意味で、いい加減、という意味ではありません。笑)

その理由を伝えたくて、それで例の逸話(スタジオで、紙に書き殴った云々)を書いた訳です。よく、「これが正しいんだ!」「いやいや、こっちが本当は正しいんだ!」みたいに論争になってしまう時がありますが、当時(50年代)のレコーディングは今と比べて遥かに牧歌的で、スタジオに入ってからようやっと、「曲は?」「ちょっと待ってて、今から書くよ」みたいなノリだった、ということです。そしてもちろん、逆にこの音はCかDか、ここのリズムは四分音符か八分音符か、と厳密に、正確にやらなければいけない時もあります。ケースバイケースということですよね(この加減が難しいですけどね)

ともかく、ぜひ練習してみてください。サイズも16小節と短くテンポもゆっくりなので、初心者にもアドリブしやすい、ジャズのセッションでも頻繁に演奏される楽しい曲です^^

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