モード名(旋法名)の由来はどこから?

Modeスケールの名称の由来の地図

モード名の起源

普段、レッスンで何気なく「そこはドリアンで」「ここはリディアンが合うね」などとMode名を使っていますが、時折、由来を聞かれることがあります。漠然と、古代ギリシャの国名か何かだろう、くらいに思っていたのですが、今日もある生徒さんに「イオニアンって?」と聞かれ、うまく答えられず、悔しかったので(笑)、良い機会なのでちょっと調べてみました。

ですが、実際に調べてみると、これがなかなか難しい。というのは、これらのモード名は国名だけでなく、地域名や部族名が混在しているからなんですね。また、それぞれ存在していた時期も大きく違います。ざっくり地図も書いてみましたが(上図)、先述の通り、難しく曖昧なものなので、あくまでざっくりとした「目安」と思ってください。

また、それら古代ギリシャの旋法が中世に7つの教会旋法(チャーチモード)としてまとめられ、というのは『一般的な(ざっくりとした)説明としては』それで良いと思いますが、もっと学術的に言えば初期には『教会旋法(教会音階)は、中世の8つの音階システムであり』、その後、

”16世紀(H. グラレアヌス、『ドデカコルドン(Dodecachordon)』、1547年)において、グレゴリオ聖歌の8旋法システムは、aおよびc’上の2つの音階(本質的には現代の短調および長調)を含むように拡張され、これにより12の旋法となった”
(Harvard Dictionary of Music 『Church modes』p165〜より / The Belknap Press of Harvard University Press)

とあります。6(に加え、「ハイポ(hypo-)」が付けられる変格旋法x2で、合計12個)。つまりグレゴリオ聖歌の旋法システムではロクリアンはカウントされていない訳です(そりゃ、そうですよね。笑)

つまり、そもそも古代ギリシャの音階と中世教会旋法も正確には相関していないし、また、中世教会旋法と、我々が使うジャズやポピュラー理論上でのチャーチモードも、正確な相関関係はない、ということです。ですが、ここで学術レベルの話をしても仕方ありませんので、以下はwikiに載っている程度の「一般的な話」と思って読んでもらえると幸いです。

1. イオニア (Ionian)

  • 由来:イオニアは、古代ギリシャの主要な部族である「イオニア人(Ionians)」や、その居住地域である「イオニア地方(Ionian region)」に由来しているそうです。
  • 位置:イオニア地方は、エーゲ海沿岸、現在のトルコ西部にあたる地域。
  • 歴史的背景:イオニア人は文化と芸術の発展で知られ、ギリシャ哲学の父タレスやヘラクレイトスといった偉大な思想家を輩出しました。
  • 音楽理論上の特徴:イオニア旋法は、ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ。つまり現在の長音階、メジャースケールですね。旋法名としての「イオニア」は、ルネサンス期の西洋音楽理論で使われるようになったとのこと。16世紀以降あたりでしょうか。

2. ドリア (Dorian)

  • 由来:ドリアは、古代ギリシャの「ドーリア人(Dorians)」という部族名、またはその居住地である「ドーリア地方」に由来しています。
  • 位置:ペロポネソス半島を中心に、現在のスパルタ周辺に住んでいた部族。
  • 歴史的背景:ドーリア人は、古代ギリシャ社会の中でも軍事力と戦士文化で有名でした。彼らが住んでいた地域は、後にスパルタの強固な軍事国家の基礎を築きました。
  • 音楽理論上の特徴:ドリアン・スケールは、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド。ナチュラル・マイナー・スケールの短6度が半音上がり、長6度になったもの。モードの中で1番使用頻度の多いものです。旋法の名称として記録され始めたのは、紀元前5世紀ごろと、かなり古い。

3. フリギア (Phrygian)

  • 由来:フリギアは、小アジア(現在のトルコ中部)にあった「フリギア王国(Phrygia)」に由来しています。
  • 位置:現在のトルコ中西部にあたり、古代ギリシャの地理において「フリギア地方」として知られていました。
  • 歴史的背景:フリギアは紀元前8世紀に最盛期を迎えましたが、紀元前7世紀にキンメリア人に滅ぼされました。ギリシャ文化にも影響を与え、エキゾチックな音楽の響きが特徴とされました。
  • 音楽理論上の特徴:フリージアンはミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド、レ。マイナースケールの2度が半音下がった(短2度)スケールです。

4. リディア (Lydian)

  • 由来:リディアは、小アジア西部に存在した「リディア王国(Lydia)」の名前に由来しています。
  • 位置:現在のトルコの西部地域。
  • 歴史的背景:リディア王国はギリシャ文化とペルシア文化の間で栄え、また世界で初めて金貨を鋳造したことでも知られています。
  • 音楽理論上の特徴:リディアンは、長音階の4度が半音上がり、増4度になったもの。テンションで言うと#11thになります。これもジャズでよく使います。リディア王国がペルシア帝国に征服されたのは紀元前546年のことですが、音楽理論上で「リディア旋法」が文献に登場するのはそれ以降とのことです。

5. ミクソリディア (Mixolydian)

  • 由来:「ミクソ(Mixo-)」は「混合の」を意味し、「リディアン(Lydian)」と組み合わせて「混合リディアン」を表しています。
  • 位置・歴史:特定の地名や民族名には由来せず、音楽理論的な名称として存在しています。
  • 音楽理論上の特徴:ミクソリディアンは、長音階の長7度音が半音下がり、短7度になったもの。これも非常によく使うスケールです。この名称の由来はなんとプラトンの『国家(Republic)』に言及されているそうです。紀元前4世紀ごろでしょうか。

6. エオリア (Aeolian)

  • 由来:エオリア(エオリアン)は、古代ギリシャの「アイオリス人(Aeolians)」またはその居住地域「アイオリス地方(Aeolis)」に由来しています。
  • 位置:現在のギリシャ北西部とトルコ西部にまたがる地域。
  • 歴史的背景:アイオリス人は、ギリシャ人の中でも最も古くからエーゲ海沿岸に住んでおり、その地域は文化的・経済的に発展していました。
  • 音楽理論上の特徴:エオリアは、現代のナチュラル・マイナー・スケールと同じになります。音楽理論上で「アイオリア旋法」が使われるようになったのは、だいぶ後、中世からルネサンス期のことだそうです。

7. ロクリア (Locrian)

  • 由来:ロクリアは、ギリシャ中部にあった「ロクリス地方(Locris)」およびその住民「ロクリス人(Locrians)」に由来しています。
  • 位置:ギリシャ中部、エウボイア島の西側およびボイオティア地方の北部。
  • 歴史的背景:ロクリス地方は、古代ギリシャでは小規模な地域でしたが、地理的に重要な位置にあったため、しばしば戦争や政治的な駆け引きの舞台となりました。
  • 音楽理論上の特徴:ロクリアンは、短音階の2度と5度が半音下がったもの。□m7(b5)に対応するスケールです。名称としては先述の通り、グレゴリオ聖歌の8旋法(のちに12旋法)には取り入れられていません。するともっと後、ロマン期か、印象派の時代か。いずれにせよかなり後世の時代と思われます。

まとめると、、

ちょっとまとめてみましょう。以下のように分類できます。

  • 部族・民族名に基づく旋法
    • ドリア (Dorian):ドーリア人
    • イオニア (Ionian):イオニア人
    • アイオリア (Aeolian):アイオリス人
    • ロクリア (Locrian):ロクリス人
  • 地域・国名に基づく旋法
    • リディア (Lydian):リディア王国
    • フリギア (Phrygian):フリギア王国
  • 造語・音楽理論的名称
    • ミクソリディア (Mixolydian):「ミクソ(混合)」+「リディアン(Lydian)」

リディアとフリギアが国名、ミクソリディアは造語、その他が民族名、といった感じです。私は漠然と、国名と思っていたのですが、べつに「ドリア国」とか「ロクリア国」といった国はなかったようです。もちろんこれらの多くは紀元前のことなので、けっこう曖昧ですし、これ以上は世界史、音楽史の専門家に任せるとして、この辺でやめておきましょう。(笑)

ただ、とはいえ例えば内陸部にあった「フリジア王国」が由来のフリージアンなど、確かに沿岸部で生まれる旋律ではないような気もしますし、トルコ中央部、もしかするとカッパドギアあたりか、ふむふむそんな匂いがするぞなんて(実際違うかもしれませんが笑)、あれこれと紀元前の時代に想いを馳せるのもまた、楽しいじゃないですか。ロマンですよ、ロマン(^^)

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